照準(2)

今回はライフル銃でよく使われる照準器の一つ、ライフルスコープについてです。 今現在は、ISSF(国際射撃連合、旧名UIT)の国際ルールでは使用が認められてませんが、ベンチレスト射撃では必須の機器ですし、ISSFの射撃競技を行っている人でも、練習では有効に使っている人も多いでしょう。 最近は好むと好まざるに関わらず、近業(眼科医の用語で、近くの距離を見続ける作業、例えばパソコンの画面を終日見るような仕事など)をせねばならない人も多いために、近視の人が射撃競技の世界でも多いようです。 筋力ならば、トレーニングで強くできますが、弱った視力は今のところ残念ながら、確実に回復させる方法は、レーザーを用いた手術を除いてはないようです。

ライフル射撃では、顔が標的に対して斜めに向きますから、メガネレンズの端のほうで標的を見る事になるため、メガネを使用している人が前回紹介したマイクロサイトを用いる場合には、射撃用にレンズの角度を調整できる特殊なメガネを用いないと理想的な照準像が得られないようです。 視力をめぐる上記の事情や、マイクロサイトとフロントサイト、更に射撃用のメガネまで合わせると、現在では平均的なライフルスコープを買うより高くつく事も考えると、スコープを用いた新しい競技形態を考えても良い時期に来ているのでは、と思うのですが(SB競技では、監的スコープも省略できるでしょう)。

スコープの場合は、標的上の狙う点(黒点の真ん中ですが)とスコープの十字線(reticle = レティクル)の中央を合わせる、点と点の照準ですが、マイクロサイトは主流のリングでは同心円状に合わせるという、広い範囲を見る照準ですから、少し勝手が違い、片方に慣れてきた人は、もう片方になれるまで時間がかかる場合もあるようです。 特に、スコープは倍率の分だけ射手の体の揺れも増幅して見えますから、10倍以上の倍率では、揺れて撃てたものではないと言う人もいます(ベンチレストのように、銃を台の上に載せて撃つ競技では別ですが)。

さて、上の写真はライフルスコープの照準調整をする部分です。 左右と上にノブが突き出ていますが、左側は像の焦点を合わせるためのもので、ほとんどのモデルでは、このようなノブではなく、鏡筒の前部を回転させる方式です。 上のノブ(elevation = エレベーション)は、マイクロサイトと同様に上下方向の着弾調整で、1クリックで 1/6 MOA調整できる(それよりも細かいモデルもありますが)マイクロサイトよりはやや荒く、1/4 MOAの調整をするものが今のところ主流です。 左右の調整を右のノブ(windage =ウィンデージ)で行うのも、マイクロサイトと同様です。

なお、マイクロサイトとスコープでは、ノブに書かれている方向(例えば、横方向の調節ではL(左)とR(右)の矢印の方向)が逆です。 これは、マイクロサイトでは「着弾点が狙った点よりも右寄りだったら、R方向に回す」という意味なのに対し、スコープでは「着弾点を更に右に移動させるにはR方向に回す」という意味のためで、逆と逆が重なって、どちらも同方向に回した場合の着弾点の移動方向は同じです(ただ、ごく一部のスコープには、この主流の方向とは逆に回すべきモデルがあり、私も競技中に弾痕不明(標的に全く当たらなかった弾が、どの方向にずれていたのか全く判らない状態)となって、パニックに陥った経験があります)。

昔は、スコープの照準調整は、スコープ自身の向く方向を変える方式だったようですが、現在では、スコープ内部で光軸の方向を変えているため、ノブを回しても、スコープ本体の銃に対する角度は変わりません。

なお、ISSFルールの大口径ライフルの公式競技は300mで行うものの、日本では100mの射撃場のほうが圧倒的に多いですから、AR(エア・ライフル)やSB(スモール・ボア・ライフル)と違って、複数の距離で撃つ場合が出てきます(全米ライフル協会のように、300ヤードや600ヤード、1000ヤードなど、いろんな距離での競技を設けている場合もあります)。 上のチャートは、私が良く使う弾頭を2,600fps(フィート/秒)の速度で20度の気温のもと無風状態で水平方向に撃った場合に、300m先の標的に照準を調整した場合の、距離ごとの上下方向の着弾点の変化です(縦軸がcm単位での着弾点のずれ、横軸がm単位での距離)。

前回の話で、照準線についてちょっと述べましたが、スコープの場合(スコープ本体の銃に対する角度が変わらないため)照準線とは、スコープと十字線上のターゲットを結んだ線ということになると思います。 射撃の経験がない人との会話で時々話題になりますが、照準線と銃身を延長した線は平行ではありません。 重力で弾は飛んでいる最中に落下し続けるため、銃身を延長した線は標的に対して上向きでなければなりません。 上のチャートでは、横軸の300mと縦軸のゼロを結んだ赤線が照準線になり、もし縦横の軸の長さを正しい比率に直せば、図の曲線が縦軸と交わる点の角度が銃身の照準線に対する角度を示すことになるでしょう。

300mで上下方向を合わせた(「300mでゼロ調整をした」と言います)状態で100mで撃つと、狙った点の約16cm上に着弾するので、1クリックの調整量が 1/4 MOAのスコープでは、エレベーション・ノブを22回、時計回りに回す事によって、正しく調整できます。 逆に、100mでゼロ調整した場合は、300m射場では、反時計回りに22クリック回すと正しく合うことになります。

また、100mあるいは300mでゼロ調整をして150mの射場で撃つ場合、100mと300mの補正量から比例配分で求めて照準の補正を行うと、見当はずれになることも見てとれます。 弾道は100mではまだ上向きで165mのあたりで頂点を迎えるのに対し、300mでは着弾点は100mより下のため、例えば、100mでゼロ調整した場合、150mでは300mのような下向きの補正ではなく、上向きの補正をしなければならないからです。

なお、蛇足ですが、スコープについて述べたついでに、狙撃を扱った漫画や映画で技術面で気になる点を述べます。 それは、スコープに映った標的が距離の割には異常に大きいということです。 現在、最も高倍率のスコープを用いるのは高精度の命中精度を要求され、かつ、固定標的を撃つベンチレスト射撃ですが、それでも36倍というのがポピュラーです。 高倍率という事は、視野が狭い事を意味しますから、動く標的で大きな倍率を用いた場合、標的が視野の外に動くと、再度視野の中に入れるのに苦労します(天体観測で数百倍の倍率で観測した事のある人は、低倍率のガイドスコープなしに目的とする天体を捉える事を想像すれば理解できるでしょう)。 1キロ以上の狙撃を想定した軍用銃でも、装着したスコープの倍率は10倍台の固定倍率のものや、せいぜい20数倍程度までのズーム機能を持ったものでしょう。 例えばある映画では、1.6キロ先の人物がスコープに収まりきらない程度に見えてましたが、仮に20倍としても、80m先の人物をスコープなしで見るのと同じことですから、とうてい有り得ない状況設定ということになります。

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